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あえて嫌いなマンガをほめてみる [マンガ]

さて、あえてファンでもないマンガをほめてみよう。別にたいして好きでもないのに、興味深く、感心するマンガがある。
とめはねっ! 6 (ヤングサンデーコミックス)

とめはねっ! 6 (ヤングサンデーコミックス)

  • 作者: 河合 克敏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2010/01/07
  • メディア: コミック
ビッグコミックスピリッツ連載「とめはねっ!鈴里高校書道部」だ。スピリッツとヤンサンが合体したときヤンサンから引っ越してきた連載だな。

このマンガがどういうマンガかというと、まあスピリッツとかさ少年サンデーとかによくある、特に少年サンデーの誌風を特徴づける「ラブコメめいたスポ根ぽいもの」に属するな。いや、サンデーの場合は「スポ根」から「根」が抜けるのだけど。書道がテーマだから「スポーツ」じゃないだろ?って?じゃあどう言えばいいのかな?何かに打ち込んでて、競ってて、主人公の成長を描いてて、ライバルとかいて・・・だからとりあえずそれでいいだろ?

で、作者の河合克敏ってのは一貫して今述べた「サンデー風スポ根(「根」抜き)マンガ」の典型を描き続けて来た漫画家。まず、初の連載『帯ギュ』

帯をギュッとね! (1) (小学館文庫)

帯をギュッとね! (1) (小学館文庫)

  • 作者: 河合 克敏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2002/10
  • メディア: 文庫
柔道マンガなのに汗臭くなく、男臭くなく、むさ苦しくなく、ラブコメ要素満載の画期的柔道マンガとして評判になった。

ジャンプはじめ他の少年誌のスポーツマンガが過酷なトレーニングや超人的なプレイ、男臭い人間関係などでストーリーを盛り上げる中、サンデーだけはこうした悪いいい方をすれば軟弱なスポーツマンガを打ち出して人気を集めた。これはあだち充が開拓した分野なんだろうな。河合克敏はその路線のど真ん中に位置する作家だ。

モンキーターン (1) (少年サンデーコミックス)

モンキーターン (1) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 河合 克敏
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1997/03
  • メディア: コミック
『モンキーターン』
これは、競艇というワイルドかつダーティーなオヤジが集結する現場をオシャレでさわやかに描いた競艇ラブコメマンガ。そんな感じで河合は小学館少年マンガの特徴—軟弱さわやかスポーツ路線を最も具現する作家の1人として活躍してきたわけだが、最新作「とめはねっ!!」においてその路線のあるファクターを極限化し、今までにない味わいの画期的な路線を打ち出した。それは何か?

イケメンじゃない主人公のフィーチャーである。

今までのスポーツマンガの場合、男臭くないとはいえ、主人公は読者が憧れるかっこいいキャラクターでなくてはならないので、それなりに「男らしく」描かれてきた。普段は女のケツを追いかけてドキドキしたり、モジモジしたりしてても、心の芯の部分には強い意志や男気を持ち、決めるときは決めるみたいな。そういう部分が「とめはねっ!」主人公大江縁にはまったくない。意志は薄弱で影が薄く、女ばかりの部活でいじられキャラを全うし、意中の娘の前ではひたすらモジモジ、ニヤニヤ。絵柄もまぶた半開きで全然かっこよくなく、とにかくダサい。はっきりいって気持ち悪い!軟弱路線の極致である。こうもかっこよくなくていいのだろうか?

だが、コレって何だろう?って考えると、今まで描かれてきた「さわやかスポーツもの」の読者の典型像って気がする。あだち充とか河合とかのマンガで描かれるかっこいい主人公の活躍をニヤニヤしながら読んでる読者を思い浮かべると大江縁のキャラクターが脳裏に浮かび上がって来るではないか!!他少年誌のヤンキー、超人、うざいくらいな積極性キャラの持ち主が渦巻くアツい世界を敬遠してサンデーなんかに群がってくる羊のようにおとなしく牙を抜かれた思春期青少年の本当の顔。それを描いてしまったのだ。いいのだろうか?こんなにも等身大でいいのだろうか?

完全なリアリズムは嫌悪を生む。本物のリアルより少しランク上を描いてちょっと憧れの要素を入れた方が読者には受ける。これはマンガに限らずあらゆる表現、エンターテイメントで通用する鉄則である。誰も等身大のさえない現実とは向き合いたくない。騙して欲しいと願っているのだ。

その常識を完全にぶちやぶった「さえない主人公」。だが、それなりに人気があるようだ。すごいことだと思う。漫画界の歴史的偉業をなしとげたといっていいだろう。

といっても俺個人は好き・嫌いで言ったら嫌いだけどね。俺サンデー路線の支持者じゃないしもともと。でも感心するのは事実。つい毎回読んでしまう。

まだ観てないが、ドラマ化したの今テレビで放映中で、やはりドラマの鉄則「主人公にはジャニーズ他イケメンを使うべし」を完全無視したもっさりした若者を主人公に据えて展開してるようだ。すげー!

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