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ストイックでいいんだよ、芸術なんだから [文化]

 今まで観た舞台表現の中で、一番「ストイックだなー」と感じたのはもう30年近く前に観た田中泯の舞踏だな。2時間ほどの作品だったが、最初舞台中央で横たわっている田中泯がおよそ1時間かけて立ち上がり、

残りの1時間かけて3歩ほど歩いた!
終わり!

 当時まだ東京出てきたばっかりで、舞台作品というものを数本しか観たことなかった時期だから、それはそれは東京という街の奥深さに畏怖したよ。そして、

インテリという種族がこの客席にはいて、この一見シンプル極まりない内容から、豊穣かつ多彩な意味世界を読み取り、引きこまれ魅惑された気持ちでその2時間を過ごし、「2時間あっという間だったよー」などと終演後言ったりするするんだろなー

と思うと、さらなる戦慄を覚えるのだった。

俺はと言えば、2時間集中なんて到底無理で、
「この後ご飯どこで食べようかなー」
とか思いながら過ごした。寝はしなかったけど。

 それからいろんな舞踏だのコンテンポラリーだの絶対演劇フェスティバルだの抽象的な作品を観てきたが、やっぱりあれがダントツにストイックだったな。同じ舞踏でも麿赤児さんのなんかは、抽象芸術とは思わせないような仕掛け、工夫に満ちており、つまりは、エンタメ要素がたっぷり導入されており、
「だから麿さんや大駱駝艦の人たちはテレビや映画の仕事いっぱい来るんだ。」
と思い、
一方でエンタメに背を向けたひたすら禁欲的な求道者の一群がおり、
「その人達はエンタメなんか関係なく学者や評論家やその他一握りのインテリゲンチア様相手にそれこそストイックな人生を過ごしていくんだろうなー」
などと思っていた。そしたら、なんと田中泯がその後売れた!タレント化した!

 いやー。世の中って何が起こるか分からないねーという一例でした。

 さて、では映画で「ストイックだなー」と思ったのは何だろう?真っ先に思い浮かぶのは園子温監督「部屋 the room」ってやつだな。長回しを多用した映画ってのが当時話題になっていた映画だが、その長回しっていうのがとにかく半端じゃない!長回し過ぎて、おまけに動きもあまりないので、
まるで映画館にいながらにして巨大写真パネルを長々と見せられているよう
だった。田中泯の舞踏は寝なかったけど、これは寝た。そして、一回寝て起きたら・・・
景色が変わってなかった!
恐るべき動画感ゼロ映画。ストイック極まりないと思い、それ以降園子温監督の映画は一本も観てない。だが、この話を周りにすると「そんなことない。最近の映画なんかエンターテイメント感満載だよ。」と言われる。全く俺の抱いている印象と違う話されるんだけど、作風変えたのだろうか?

 まあそんなわけで、何が「そんなわけ」なのかよく分からないが、世の中いろんな温度差があった方が楽しいという立場なので、ストイックな求道者の皆さんは客にこびることなく、益々ストイックにおのれの信じる道を突き進んで欲しい。
 え?俺?俺はサービス精神でやってるから全く逆だよ。製作過程はストイックであっても客には一片のストイックさをも強いてはいけないと誰よりも心がけているよ。俺はそれでいいんだよ。芸術じゃないし。


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